東京地方裁判所 昭和26年(ワ)2737号・昭26年(ワ)5787号・昭26年(ワ)8125号 判決
原告 吉田藤一郎 外一名
被告 共和ゴム株式会社
一、主 文
被告会社が昭和二十六年五月二日その肩書地所在の当時の仮事務所に招集した臨時株主総会においてなした(イ)定款第二条中資本金「二百三十万円」とあるを「四百万円」に、第四条中「東京都豊島区目白町二丁目千五百七十三番地」とあるを「東京都中央区」に、第十七条中「取締役五名以内」とあるを「取締役十名以内」に、第二十三条中「当会社は社長又は専務取締役を設くることを得」とあるを「当会社は取締役会長・取締役社長・専務取締役各一名及び常務取締役若干名を互選することを得」に、夫々変更する旨、(ロ)中島勝三郎、中山督、久保董一、山脇武、中島勝、勝田晴夫、新庄鹿一を夫々被告会社取締役に、井田十郎を同会社監査役に選任する旨、(ハ)中島勝三郎を被告会社代表取締役に選任する旨及び(ニ)被告会社の役員の報酬を六ケ月分百万円以内とする旨の各決議がいずれも存在しないことを確認する。
被告会社が昭和二十六年五月七日登記してなした資本増加はこれを無効とする。
被告会社が昭和二十六年七月三十一日肩書地の本店事務所に招集した通常株主総会においてなした昭和二十六年度上期の営業報告書、貸借対照表、財産目録及び損益金処分案を承認する決議が存在しないことを確認する。
原告等のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを四分し、その三を被告、その余を原告等の負担とする。
二、事 実
原告等訴訟代理人は、「(一)被告会社が昭和二十五年八月二十九日主文第一項掲記の場所に招集した臨時株主総会においてなしたと称する、資本を金百七十万円増加する旨の決議の存在しないことを確認する。」という他、(二)主文第一項、(三)主文第二項、(四)主文第三項と同旨及び「訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、なお右(一)の請求が容れられないときは「同決議は無効であることを確認する。」右(二)の請求が容れられないときは「主文第一項の決議は無効であることを確認する。」この請求も容れられないときは「主文第二項の決議を取消す。」右(四)の請求の容れられないときは「主文第三項の決議が無効であることを確認する。」との判決を求め、その請求の原因として、「原告吉田藤一郎は被告会社の株式一万五千五百八十二株を有する株主、原告杉浦英一郎は同株式五千株を有する株主であるところ、
(一) 昭和二十五年八月二十九日の総会の決議について、
被告会社は昭和二十五年八月二十九日その肩書地所在の当時の仮事務所に招集した臨時株主総会で、資本を金百七十万円増加する旨の決議をしたと称しているが、右決議は存在しなかつたものである。もつとも右株主総会において、一部の株主から会社の資本を金百七十万円増加する旨の提案があり、それに基いて出席株主の間に、被告会社のその後の経営方策として、増資できるかどうかを検討してみようという程度の申合がなされたことはあるが、右は決議という迄には至らなかつたのである。仮りに資本増加の決議がなされたとするも、その決議は、次の理由によつて現在はその効力を有しない。すなわち、
(イ) 右決議においては新株の引受は、全部被告会社の取引上の得意先の引受申込に対してのみ割当をなすべきことを予定し、得意先が全株式の引受をしないことを解除条件として右決議をしたものである。しかるに、同年十一月頃には、僅かに額面約二十万円相当の株式について引受申込があつたのみで到底右予定達成の見込のないことが確定したので解除条件が成就し、決議は初に遡つて効力を失つたのである。
(ロ) 仮りに右の通り認められないとしても、右増資新株の引受条件として引受人は、昭和二十六年二月末日までに増資報告総会が終了しないときは、引受を取り消すことができる旨定められていたところ、右期日までに増資報告総会が終了しなかつたから、右決議の効力は、約六ケ月にわたる長期間の空白により自然消滅した。
(二) 昭和二十六年五月二日の総会の決議について、
被告会社は昭和二十六年五月二日同所に招集した臨時株主総会において、主文第一項掲記の決議をしたけれども、右決議は次に述べるようなわけで法律上存在しないもの、仮りにそうでないとするも法律上無効のものである。即ち、
(イ) 原告吉田はもと被告会社の取締役であつたところ、昭和二十五年十二月十八日辞任し、これにより同会社は取締役の法定数を欠くに至つたので、同会社取締役高木政勝、同新庄鹿一及び監査役井田十郎の協議により、翌二十六年三月十八日旧商法第二百七十六条第一項但書に基き、右井田を一時取締役の職務を行うべき者と定めた。しかしながら右規定は、取締役に欠員がある場合において監査役が二名以上在任するとき、一時その中から取締役の職務を行わせる者を指定することができる旨を定めたに止るのであるが、右井田十郎は右の場合被告会社の唯一の監査役であつたから、同法条は適用の余地なく、同人は元来右のような指定を受けることができなかつたのである。従つて、昭和二十六年三月二十五日取締役の職務を行う者となる資格のない井田十郎が加わつてなした被告会社の株主総会招集についての取締役会の決議は無効であつて、この決議にもとずいて為された総会の招集は違法である。又同人は、昭和二十六年四月十七日右決議にもとずいて株主に対し株主総会の招集通知を発したのであるが、これは招集権限のない者の招集として無効であるから、この招集による株主総会の決議は法律上存在しないものというべきである。
(ロ) 仮に右の主張が認められないとしても、右決議は株主でない者が株主として加わつてなした違法の決議である。そのわけは、被告会社の前記昭和二十五年八月二十九日の増資決議は存在しないに拘らず、前記高木、新庄及び井田の三名はこれがあつたと称して増資手続を進め、更にその増資新株の払込が完了したとして新株引受人なる者を同決議に参加させた。しかし増資新株の引受人は、未だ新株の株主になつていないけれども、新株の募集に関する事項を報告する総会においてのみ特に株主と同一の権利を有するのであつて、同一総会においてであつても右事項にあらざる事項については、株主と同一の権利を有しないわけであるから、その者の加わつた新株の引受に関する事項にあらざる事項についての決議は違法である。
(三) 昭和二十六年五月七日の増資の無効について、
被告会社は前記(一)の増資決議があつたものとして増資手続を進め、昭和二十六年五月二日臨時株主総会(前記(二)の総会と同じ総会である。)を招集してこれに新株の払込があつた旨報告し、同月七日右増資の登記をした。しかし右増資は以下に述べるような違法があるから無効とすべきである。即ち、
(イ) 右増資の前提である資本増加の決議は前記(一)の通り存在しないものであり、仮りにそうでないとしても増資手続当時既に失効していたのである。
(ロ) 仮に右決議が存在し、なお現に効力を喪つていないとするも、その増資には新株引受権のない者によつて引受けられている違法がある。けだし右決議乃至はその決議の際株主総会から細目の決定及びその実行の委託を受けた原告吉田のなした決定では、増資新株の引受人を全部被告会社の取引先に限定したのであるが、本件新株の実質上の引受人は、従来同会社と何の関係もなかつた中島勝三郎なのである。もつとも形式上は旧株主である前記高木、新庄及び井田が引受けたことになつているけれども同人等は取引先ではない。仮りに株主たる資格で引受けたものとするも、この場合株式の割当は、株主の支配の分布状態維持のために、各株主の間に平等に行われなければならないのであつて、右三名の株主のみに割当てられた本件の引受は株主平等の原則に反し、違法である。
(ハ) 次にこれら引受人の引受に瑕疵がないと仮定しても、昭和二十六年三月十八日以後に右増資手続に当つたのは前記井田十郎を加えた取締役会であるが、右井田は前記の如く取締役の職務を行い得ないものであるから、結局右取締役会によつて進められた右手続もまた違法たるを免れない。
(ニ) なお、本件株式申込は株式申込証を用いないでなされている。株式の引受は商法の定める事項を記載した株式申込証によつて申込をして為す行為であるから、右申込は無効である。
(ホ) 更に本件増資のための株金払込銀行は当初埼玉銀行池袋支店であつたのに、その後裁判所の許可なく帝国銀行丸ノ内支店に変更された違法がある。又株式申込を取消し得る期間も、当初昭和二十六年二月末日であつたものが、後に同年五月末日に変更されたが、これまた変更の権限のない者によつてなされたもので違法である。
(ヘ) 最後に、右増資の報告は昭和二十六年五月二日の臨時株主総会において行われたわけであるが、右総会は前記の如く招集権のない者によつて招集されたものであるから、右報告及びその承認は法律上不存在である。
(四) 昭和二十六年七月三十一日の総会の決議について、
被告会社は昭和二十六年七月三十一日肩書地の本店事務所に通常株主総会を招集して、昭和二十六年度上期営業報告書、貸借対照表、財産目録及び損益金処分案に対する承認決議をしたと称しているが、右総会は、法律上不存在というべき(二)の決議により取締役に選任された中島勝三郎が取締役として招集したものであるから、この総会は、招集権限なき者の招集であり、この総会でなされた右決議は、やはり法律上存在しないもの又は無効を以て目すべきものである。
よつて請求の趣旨の如く本訴に及ぶ。」と陳述した。<立証省略>
被告訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。」との判決を求め、「原告主張の請求原因事実中、原告等がその主張のような株主であることは認める。その他の事実はつぎの通りである。
(一) 昭和二十五年八月二十九日の株主総会の決議について(以下原告の請求原因に附された番号に対応するものとする。)
被告会社が昭和二十五年八月二十九日原告主張の場所に臨時株主総会を招集したことは認めるが、その余の事実は否認する。この総会において資本金百七十万円を増加する旨の決議がなされたのであつて単にその旨の申合をしたという程度のものではない。なお、
(イ) 資本増加の決議に原告主張のような解除条件を附したことは否認する。仮りにそのような条件が附されたとするも、資本増加の決議に附された条件は無効であるから、原告の主張は理由がない。
(ロ) 引受取消条件の成就によつては引受が取消されうることとなるのみであつて増資決議が効力を喪うことはない。
(二) 昭和二十六年五月二日の株主総会の決議について、
被告会社が昭和二十六年五月二日原告主張の場所に招集した株主総会において原告主張の決議がなされたことは認める。
(イ) この総会が原告主張のようなわけで一時取締役の職務を行うべき者に定められた唯一の監査役たる井田十郎によつて招集されたものであることは認める。しかし、右井田十郎がなした招集は適法であつて無権限による違法のものというわけのものではない。けだし、旧商法第二百七十六条の規定は原告のいうように狭く解すべきでなく、右井田は同条第一項但書に基き有効に一時取締役の職務を行うべき者と定められたのである。仮に右決定が誤つていたとするも、右井田は、なお監査役の資格を保有しており、同人のした招集は、取締役及び監査役の全員の決定に基き、監査役としてしたことになるから、やはり手落がないことになる。
(ロ) 又右決議に新株引受人が加わつたのは正当な増資手続を経たものであつて些かの違法もない。仮に右決議参加が違法であるとしても、少くとも右決議は全会一致でなされたのであるから、右増資株数に相応する議決権三万四千株分(それは旧株主である高木政勝、新庄鹿一及び井田十郎が引受けたものである。)を除いても、なお結果に相違を来さない。
(三) 昭和二十六年五月七日の増資について、
被告が原告主張の通りの手続を経て昭和二十六年五月七日資本増加の登記をしたことは認める。
(イ) その増資決議が行われ、現になお効力を有することは前述した。
(ロ) 高木等は、被告会社が新株引受人募集に手を尽したに拘らず、所期の成績をあげることができなかつたので止むなく自ら引受けたものに他ならない。
(ハ) 増資手続に当つた者は総て被告会社の取締役及び監査役であるから違法はなく、しかもその間役員間に意見の不一致があつたことはないから、その効力を云々する必要もない。
(ニ) 右手続に当つては適式の株式申込証により株式申込がなされている。
(ホ) 払込を取扱う銀行及び引受取消の条件たる払込報告の総会の終結すべき時期を変更したことは認めるけれども、この変更は、権限ある者によつてなされたものであつて違法ではない。
(ヘ) 増資報告総会の招集が適式であることについては前述した。同総会において増資報告承認の議案は賛成多数で可決されたものである。なお仮に右総会の招集乃至報告に何等かの瑕疵があるとしても、増資は元来新株式の払込完了により既に効力を生じているのであつて、いわゆる増資報告総会は単に引受及びその払込の有無につき調査の結果を報告するに止まるものであるから、同総会の手続の適否は増資の効力に影響をきたすものではない。
(四) 昭和二十六年七月三十一日の株主総会の決議について、
以上述べたところから(四)の決議にも原告の指摘するような欠陥が生じ得ないことは明かであるが、仮に取締役中島勝三郎の選任が違法であるとしても、少くともその選任の違法が判決で確定するまでは右決議の効力は否定されえないものである。」と答弁した。<立証省略>
三、理 由
原告吉田藤一郎が被告会社の株式一万五千五百八十二株を有する株主、原告杉浦英一郎が同株式五千株を有する株主であることは当事者間に争がないから、以下に被告会社の株主総会の決議等を争う原告の請求を順次検討する。
(一) 昭和二十五年八月二十九日の総会決議について、
被告会社が昭和二十五年八月二十九日その肩書地所在の当時の仮事務所に臨時株主総会を招集したことは当事者間に争がないから、同総会において資本金百七十万円を増加する旨の決議がなされたかどうかを考える。成立に争のない乙第一、二号証によれば、右株主総会は、被告会社の資本金を百七十万円増加することを決議事項の一として招集されたものであることを認めるに十分であつて反対の証拠はないから、右増資の議事は原告の主張するように総会における一部株主の提案という程度のものでなかつたこと明かであるといわなければならない。資本増加の決定が最初から予定された総会の議事であつた右認定事実に成立に争のない甲第四号証の一乃至三、乙第三号証の一、同号証の三の一、二、同号証の四、五、六及び証人高木政勝、同井田十郎、同大林貞夫、同新庄武夫、同田中昇策の各証言を綜合すれば、右株主総会において被告会社の資本金を百七十万円増加すべき旨決議されたことを認めるに十分である。この点についての原告吉田藤一郎の供述は措信し難い。又原告は、甲第四号証の一乃至三を援いて決議の不成立を主張するけれども、証人山本誠一の証言及び原告吉田藤一郎の供述を綜合すれば、原告吉田藤一郎は総会中議事につき自ら筆記したメモ(乙第三号証の一)を総会終了後被告会社の社員たる山本誠一に交付し総会の議事録を作成すべき旨命じ、且つ、総会において増資の細目の決定を社長に一任していたので被告会社の取引上の得意先の引受を予定して新株申込の勧誘をしたところ、わずかに額面約二十万円程度の申込を受けたのみで所期の成績を挙げなかつたことを認めることができるから、資本増加の決議が成立しなかつたとする原告の主張は到底採用することができない。なお、仮定の主張として、
(イ) 原告は、右増資決議は、被告会社の得意先が引受けないことを解除条件として為されたのであると主張するけれども、右決議にそのような条件が附されていたことを的確に認めるに足る証拠はない。
(ロ) 更に、原告は、右決議は昭和二十六年二月末日の経過によりその効力を喪失したと主張し、その援用する甲第四号証の三によれば株式申込書用紙には「昭和二十六年二月末日マデニ資本増加ノ報告総会ノ終結シナイトキハ株式ノ申込ヲ取消スコトガデキル」との記載があり、証人高木政勝の証言及び原告吉田藤一郎の供述によれば、この記載は、総会の前記委任の趣旨により社長として原告吉田藤一郎が定めたものであることを認めることができ、右期日までに増資報告総会が終結しなかつたことは、弁論の全趣旨よりして当事者間に争ないものと認めうるけれども、これは、被告の主張する通り引受を取消す権利を行使することができる時期を定めたものであつて、この定あるが故に決議がこの時期の到来により当然にその効力を喪失する訳のものではない。
(二) 翌二十六年五月二日の総会の決議について、
被告会社が昭和二十六年五月二日前同所に招集した臨時株主総会において、原告主張の各決議がなされたことは当事者間に争がない。
右株主総会は被告会社の監査役たる井田十郎が同年四月十七日発した招集状により招集されたものであること及び、原告吉田はもと被告会社の取締役であつたところ、昭和二十五年十二月十八日辞任し、これにより同会社は取締役の法定数を欠くに至つたので、取締役高木政勝、同新庄鹿一及び唯一人の監査役たる井田十郎の協議により翌二十六年三月十八日旧商法第二百七十六条第一項但書に基き、右井田を一時取締役の職務を行うべき者と定め、その資格において右招集をしたものであることは当事者間に争がない。この措置の当否を定める為、右旧商法の規定の趣旨を考えると、右は株式会社の業務執行機関である取締役の員数に欠員を生じた場合に、これを監査機関である監査役中から一時補うことができるなら、法定の会社の全機関の機能をとめることなく正常な運営をなめらかに維持させることができるので、短期間を限りそのような措置をとることを許したものに他ならない。従つてもし監査役もまた一人しかないような場合に、これをもつて取締役の職務代行者に充てるとすれば、会社は逆に監査機関を欠き、その機能はとまり、たとえ一時にもせよ、会社の正常な運営がとげられないことになるから、このような場合には右規定の適用は許されないものというべく、従つてこれを侵して監査役が一時取締役の職務代行者に指定されたとすれば、それは商法の所期する会社の構成をことさらに乱すものであつて、その者のなした行為は無効となるといわなければならない。しかるに当時井田が被告会社の唯一人の監査役であつたことは当事者間に争がないから、同人に対する右指定は効力がなく、同人が代表取締役の職務を行う者の資格においてなした前記招集もまた無効である。被告はこれに対し、右指定が無効であるとしても右井田の招集は監査役の行為として有効であるというけれども、監査役は取締役の監督機関であつて両者の職務は相反するものであるから、その間に右のような無効行為の転換は許されない。従つて右決議は、法律上招集権限のない者の招集した総会において為された決議ということになり、とうてい適法な総会の決議といえないから、法律上は存在しないものといわなければならない。原告の請求は、その主張の(イ)の点において理由があることになる。
(三) 昭和二十六年五月七日の増資について、
被告会社が前記(一)の増資決議を根拠として増資手続を進め、前記(二)の臨時株主総会に新株の払込のあつた旨報告し、同月七日右増資の登記をしたことは当事間者に争がない。これに対し、
(イ) 原告は、右増資の前提である(一)の決議及びその効力の存在を争うけれども、右決議が適法に為され、現になお効力を喪つていないことはすでに前に認定した通りである。
(ロ) 次に原告は右増資新株の引受は増資決議の際なされた全株式を取引上の得意先のみに引受けさせるという附帯決議に違反し、被告会社の取引先以外の者によつてなされているから無効であるというが、このように増資決議を制限する決議があつたことの証拠がないから、この点も理由がない。もつとも原告吉田藤一郎の供述によれば本件増資新株の引受を取引先にさせようと計画したことが窺えるけれども、それは法律上決議という程強い意味のものでなく、資金が株主その他からえられないのでとられた一の方針ともいうべきものであつたところ、原告吉田は会社理事者としてこの方針の実現に失敗し、昭和二十五年十二月十八日辞任したのであることが右原告本人の供述によつて窺えるから、その後増資実行の衝に当る者において先の方針を変更することがゆるされないわけではなく、これを変更しても何等増資手続の違法をもたらすことはない。なお原告は旧株主である高木政勝、新庄鹿一及び井田十郎が右新株を引受けたことは株主平等の原則に反するというけれども、新株の割当先を誰にするかということは、定款その他の特段の制限のない限り自由に決し得るところであり、本件についてはかかる有効な制限が存することを認める根拠がないからいずれにせよ新株引受人の適格を争う右主張は理由がない。
(ハ) 更に原告は、原告吉田の退職後右増資決議は、被告会社の取締役会の決議によつて実行されたのであるが、この取締役会には前記のように取締役としての職務を行い得ない井田十郎が参加しているから、右決議の実行は無効である旨主張する。
証人高木政勝の証言によれば、被告会社が昭和二十六年三月十八日さきに会社に提出された原告吉田の辞表を正式に受理した後は増資決議の実行は専ら取締役会の議を経てなされたことが認められる。かかる措置は、増資の細目の決定を社長に一任した総会の決議の趣旨と相容れないわけのものでなく、この場合、特別の主張立証がないから、井田は取締役会を通じて右増資の実行に加わつたものというべきである。しかして、原告吉田藤一郎の社長辞任が正式に受理された後株式申込証の記載の変更、払込取扱銀行の変更、割当増資報告総会招集の決定及び同招集等がなされたことが証人高木政勝の証言及び原告吉田藤一郎の供述によつて認められる。果して然らばこれら増資決議は、関与する権限のない者の意思が加わつて実行されたことになるから、この実行は当然効力なく、増資は未だ完了していないといわなければならない。被告会社が昭和二十六年五月七日登記してなした増資を無効とすべきものであるとする原告の主張は、他の点について判断するまでもなく、この点において理由がある。
(四) 昭和二十六年七月三十一日の総会の決議について、
中島勝三郎が昭和二十六年七月三十一日被告会社の本店事務所にその通常総会を招集したこと及びそこで原告主張の決議がなされたことは当事者間に争がない。而して右中島勝三郎は前記(二)の決議により被告会社取締役に選任されたものであるところ、右決議はすでに認定した通り招集権限のない者によつて招集された総会においてなされたものであるから、法律上存在せざるものというべく、したがつてそれにより有する同人の地位もまた法律上の効力なく、本件(四)の総会招集もまた権限のない者がこれをなしたことになる。
されば、右総会においてなされた右のような決議は法律上存在しないものというべく、よつて同決議不存在の確認を求める原告の請求は理由があるといわなければならない。そして、本訴において代表取締役中島勝三郎の選任決議の効力を争う請求は、この請求に対し単に併位的に存在し、矛盾なく同時に判断し、確定させることができるのであつて、前者が確定してからでなければ後者の判断ができないという訳のものでないから、この点の被告の主張は理由がない。
よつて(二)の決議の取消、(三)の増資の無効宣言及び(四)の株主総会の決議の不存在確認を求める原告の請求を正当として認容し、その余の請求を理由がないとして棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条、第九十二条、第九十三条の各規定を適用して、主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 中島一郎 矢口洪一)